グローブなき野球刈田の中走る　　工藤博司

　昭和二十年代少年期を過ごした私達にとって、最も楽しみだったものは草野球に興じることであった。赤バットの川上哲治・青バットの大下弘選手等、有名プロ選手のプロマイドを収集するのも流行った。

　私達の野球と言っても、グローブやミットはなく全て素手。バットも山の木を削った手製のもので、刈り入れの終った田んぼが格好のグランドであった。そのため、ピッチャーマウンドと、バッターボックスのところがカンカンに固まって、春に田を起すのに一苦労だった筈だが、田の持主からは一度も苦情がなかった。あれから六十年も経った今も、そこにあった刈田の姿は変らず、稲を運び込んだ後の稲架(はざ)棒が雪の来る直前まで立っている。

　（画・加藤貞雄）