きりぎりす芭蕉ここより舟使う　　工藤博司

　内川と、金峰・母狩の山波は鶴岡を象徴する山河である。

　とりわけ内川は、市内の中心部を流れ、市民のくらしにも直結している。藤沢周平さんの小説に登場する「五間川」はこの川であろう。春は花吹雪を浮べ、夏には水中の草を刈る姿を見ることが出来る。山王商店街から鶴岡銀座に入る橋のたもとは、芭蕉が奥の細道の旅の途次に鶴岡で三泊後、陽暦の七月二九日、酒田へ向うために上舟した地である。

　今は、知る人も少く、内川の川べりに「芭蕉上船の地」を知らせる標柱が立っている。

　まわりの草むらでは、そろそろ秋の虫も鳴きはじめる頃で、訪れる人もほとんど少なく、時の流れの速さを知らされる。鶴岡市中の、芭蕉ゆかりの地は、ぜひ一見して欲しいものである。

　（画・加藤貞雄）