火打ちの余理(あまり) 大沼 浩
火打ちは、大言海①で「（一）火打石ト火打金トヲ打合ハセテ、火ヲ取リ、…（二）三角形ノモノ。」です。火口(ほくち)、火打ち石、火打ち金などが火打ち道具です。英語でテインダー、フリント、スチールです。このことは柳田著『火の昔』の「火を作る法」などの章②に詳述されています。
火打ち金は、①「鋼鉄製ノモノヲ、木ニ嵌(は)メコミタルモノ。」です。②は「通例は手頃の木片に、わずかの鉄をかすがいのように打ち込み、それを右の手に持って石の稜(かど)を打つ」といいます。広辞苑③は「三角形の鋼鉄で」です。②は鉄で一貫していますが、①③とも鋼鉄・スチールというのは訳があります。山水秀一郎著『昔のあかり考』④によると、鋼は炭素を含んでいるので「削られた炭素の微粒子は高温燃焼を助長、持続する働きをすることになる。」そうです。③が三角形とするのは分かりません。①（二）には「（火打袋ノ三角ナルヨリ云ウ）」ですが、②③にありませんから、この情報は①から③にかけて廃れたのでしょう。②のイラストの袋は四角で口ひもに火打ち金がつながっています。
火打ち袋の携帯は、日本武尊の東征にありますが、②は「これは熱田(あつた)の叔母君からの特別の贈物で」といいます。叔母は熱田神宮ではなくて、④のいうように伊勢神宮の倭(やまと)姫(ひめの)命(みこと)のことです。古事記の日本武尊は、相模の野で国造(くにのみやつこ)に火をつけられます。袋を解くと火打ちが入っていました。倭姫命は危機に遭うのを予見していたのでしょう。袋が三角形だったらかれは何の袋か分かったでしょう。昔、火打ち道具を袋に入れて携帯したのはポケットがなかったからでしょう。
＜地名シリーズ＞火打崎（ひうちざき・鶴岡市菱津） 大沼 浩
