昭和も遠く 29

共謀罪　成澤 功（中町）

　何の事はない、昭和初期に猛威を振るった〝治安維持法〟の復活である。

　３年後の東京オリンピックを控えてこの法律がどうしても必要と安倍首相は強調するが、前回（昭和39年）のオリンピックと比べて日本の治安状況は著しく悪化しているのでしょうか。答えはＮＯです。

　保守系の政治家やそれに追随する高級官僚が、自分等(ら)の存在感を誇示するため、強権的な法律を乱造したい欲望をあからさまにしているとしか思えません。

　昨年２０１６年２月14日の民報藤島２面に、私の拙文「昭和も遠く④」に近縁の阿部正雄が特高に掴まった時のいきさつを記述しました。

　この時だけに、要点を再録します。

　酒田市片町（当時は松嶺町）に大正４年生まれ。旧制鶴中を経て東京外語スペイン語科に入学。卒業後、南千住の電気会社に就職。職場の昼休みに、仲間達に「現下の戦争は大本営発表や新聞報道とは違う」批判的意見を言ったり、気の合う友人と同人誌を発行したりしていた。

　昭和18年８月の或る朝早く３人の特高がアパートに踏み込んで来た。いきなり拘置所へ収容され、間もなく亀有警察署へ身柄を移された。

　何回にもわたって「共謀の仲間は居ないか」と質問攻め。「わからない」と同じ答えを繰り返すと、拷問専門の体格のいい男が自分を正座させ、革の靴のまま股に上って思いっきり踏み付けた。

　あまりの苦痛に失神すると特高２人に担ぎ上げられ、「今日はこれまでだ」と雑居にどしんと放り込まれた。

　昭和20年５月に豊多摩刑務所へ。東京大空襲があり、獄窓に舞い散る火の粉が飛び込んで来た。

　翌６月第３回公判で懲役３年の判決。直後秋田刑務所に移された。

　同年８月15日の敗戦により10月８日釈放。10月15日治安維持法廃止。

　この法律で約７万人が検挙され約６千人を起訴している。拷問、虐待、病気などで１６００人以上が死亡。

　政府は法律を成立させるだけで後の運用は地方末端の各警察署に丸投げし、その組織や個人は職務に忠実か或いは功名心にはやってか、世間の噂話にも聞き耳を立て、無実の人たちをしょっぴく危険がある。

　70数年前の暗黒社会の再現は真っ平ごめんです。


・昭和も遠く④／｢特高｣　成澤 功（中町）（民報藤島2016年2月7日第1034号）