コトバ

ホイッティングトン・チャイム②　大沼　浩

　道端の今ホイッティングトン・ストーンと呼ばれる石に腰を掛けてディックが聞いたのは、ボー・ベルズというセントメリー・ル・ボー・チャーチの鐘の音でした。ボー教会はロンドンの中心にあり、鐘の聞こえる範囲の人がロンドン子でコクニーといわれます。

　教会の鐘は、日本の寺院の一つの釣り鐘を撞木(しゅもく)で突くのと違い、ベルズというように五個から十二個の組み鐘です。逆キャップ型の鐘の中にクラッパーともいう舌(タン)が下がっています。鳴鐘法によってベル・リンガーが奏でるメロディー・音楽がチャイムです。

　今のボー・ベルズは十二個です。これが時計会社のカタログのホールクロックのチャイムなのでしょう。しかしディックが聞いたとおりかは分かりません。ロンドンは大火に遭い大戦を経ているからです。新ボー・ベルズは古い鐘の破片を鋳込み、１９６１年に初めて鳴らされたのです。(続く)