「デイックとネコ一匹」　大沼　浩

　ボー・ベルズに呼び返されたデイックは、元の主人の雇いに戻りました。その後ほどなく主人は、持ち船がモロッコに出航するので、召使いたちに交易の品を募りました。デイックはネコ一匹しか持っていませんでしたので、それを託しました。たまたまモロッコの国王はネズミに悩まされていましたが、デイックのネコが退治しました。王は大変喜んで、高額の値段で買い上げました。デイックはその金で事業を始め、大金持ちになり、主人の娘と結婚しました。彼はナイトになり、三度ロンドンの市長になりました。

　これは伝説で、三度のロンドン市長のほかは実話ではありません。彼の父のウイリアムは富裕な雑貨商でした。彼はまたホイッテイングトン・カレッジを創設しています。

　南方熊楠(みなみかたくまぐす・１８６７～１９４１・植物学・民俗学者)に「猫一匹の力に憑って大富となりし人の話」があります。またボールドウィンの「五十の逸話集」にも入っています。