エッセイを読む

『帰省』�@―唯一の記念碑と大好きな夕日　　　青山　崇

　湯田川小学校前に生前建てられた周平唯一の記念碑がある。本を開いた形で、向かって左面は活き活きと躍動する新制中学生を詠んだ「花合歓や　畦を溢るゝ　雨後の水」の句、これはすぐ決まった。右面は周平について書く面で、「赴任してはじめて、私はいつも日が暮れる丘のむこうにある村を見たのである」とある。３案から最終的に選ばれたという。なぜ選んだのだろうか。

　エッセー「私の出会った詩」で、「私が初めて心を惹かれ…子ども心にショックを受けた」詩として、カール・ブッセ「山のあなた」をあげ、高坂の村から見える風景を書き、「村はずれの川辺で遊びながら彼方に沈む夕日を眺めるのが大好きであった。その夕日の先には何かがあるぞという…つまり、自分で眺める世界のほかに別の世界があると感じ、それに憧れる気持ちが、このブッセの詩と重なったのだと思う。」と書いている。

　大好きな夕日、その先にある別の世界への憧れが、教師生活とはじめての村という世界というかたちで、現実のものになった喜びをこの文は簡潔に表している。そのことを教えてくれるエッセーである。