暗殺の年輪�D―探索

青山　崇

　母波留の実家桧垣庄右衛門を訪ねる。父の横死の真相と「女の臀ひとつ」云々の意味を確かめるためである。しかし伯父は「いろいろな風説がある」「この際言っておくが、軽々しい言動は慎め。事件のあと、葛西の家は１５０石を50石減らされただけで済んだ。事件がお前の言うようなものであったら、葛西の家はお取潰し、お前や波留の命もどうなったか解からん」と言いしまいには激怒してしまう。馨之介はかえって疑惑が深まり、やがて俺の命と引き換えに母は貞操を売ったのだと感ずる。

　徳兵衛の店に行く。そこで兵庫の屋敷で中間（ちゅうげん）をしていた弥五郎が知っていることを聞きつけ連れ出し詰問する。その結果、母は兵庫の別墅（べっしょ別荘）に泊まっていた。そして３歳ぐらいの古い記憶にかすかに残っていた、母が誰かを送っているのは父でなく兵庫だったのだ。馨之介は「狂暴なものが心のなかに芽生え、狂い出そうとして」おり、もう行ってもよいと言ったが、「貴様、妻子はあるのか」と帰る弥五郎を追ってただ私情のために罪のない者を殺す。初期の作品は「時代小説という物語の形を借りた私小説」で「鬱屈した気分をせっせと流しこんだ。」だから死んで終るなど「暗い仕上がりのもが多い。」（「転機の作物」）と周平は書いている。その典型の場面である。

　「お前のために、したことですよ」母の低い声、「ずいぶんと愚かなことをなされた」。馨之介にまた凶暴なものが心に動いた。どうしようもなくて、お葉の店に行き女体に埋没していく、優しさなど微塵もなく荒々しく。家に戻ると「家の中は闇…闇には人の気配が死んでいた。」母の自害である。馨之介は自らの意志で兵庫を暗殺する。