名医と養生のおかげで、妻女は順調に回復した。
村はずれの松の木の下に、女が一人立っている。じっとこちらを見たまま動かない。その白っぽい立ち姿が、妻女の奈美だとわかるまで、さほどひまはかからなかった。
「ひとりで歩けたのか？」」
「はい、そそろと…」
「しかし、ここにいるのも、雪が降るまでじゃな」
「はい。家が恋しゅうござります。それに、少し……」
「なんじゃ？」
「はい。もったいないことですが、少し美食に飽きました」
「それなら家にもどるしかないの。おのぞみの粗食を作ってやるぞ」
「おまえさま、雪の降るまでには、すっかり元気になるかも知れませんよ。はやく、ご飯の支度をしてさし上げたい」
「無理することはない。じっくりと様子をみることだ」
小春日和の青白い光が、山麓の村に降りそそいでいる、夫婦の愛情物語である。
この情景は、湯田川温泉一本松あたりであると思われるのだが、どうだろう。
湯田川温泉入口の一本松（昭和の絵はがきから)
