ある演奏家が受けた｢おもてなし｣　新町　齋藤留治

　中国の伝統楽器｢二胡(にこ)｣(弦が２本しかなく日本の琵琶に似ている)の演奏家のＡ女史は中国遼寧省の大連生まれ。大連は日本にも広く知られている都市で美しく清潔な街と言われている。

　彼女の専門は心臓外科医。毎日救急車で運ばれてくる一分一秒を争う「死線」との勝負を争う世界で働いていたある時、日本の大学（広島大学大学院）へ客員研究員として派遣されるチャンスが巡ってきたそうである。

　家庭を持って子どももいる彼女は、中国に残るかどうか迷ったそうだが、そうそうないチャンスと決断して来日した。

　祖国に残してきた家族の事も心配だし、言葉も判らないというストレスに悩まされる日々を過ごしていたある時、「中国文化とのふれあい」という行事に誘われた。

　もともと彼女は音楽の才能にも恵まれてもいて、小さい頃から色々な楽器を学んでいたそうであった。

　中でもプロ級の腕前を持っていた二胡という楽器を、その会場でチャイナ服を着て演奏したところ拍手喝さい、たちまち「彼女は二胡の名手」という噂が広がり、度々演奏会に招かれるようになったそうである。

　心臓外科医と二胡演奏家という２つの顔を持つようになった彼女。

　ある時、「Ｍライオンズクラブ設立記念大会」での演奏が舞い込み出かけたが、会場には立派な服装をした紳士達ばかり。緊張をしながら一曲を弾いた後、自己紹介を兼ねて挨拶をさせていただいた。

　秀才でも簡単に外国語をマスター出来ないのは当たり前で、「今日は立派な偉い人ばかり｣と言おうとしたそうだが、言葉が出なく口から出たのは｢今日は偉いバカ（方）ばかりの会に（で）演奏するチャンスをいただきありがとうございました｣と口走ってしまったそうでる。

　会場は一瞬静まり返った後大爆笑。演奏が終わり、祝賀会に移っての副会長の乾杯の発声は、｢私はただ今紹介をいただいたバカの会の○○です｣で宴会が始まったそうです。

　これは優しい「おもてなし」。

　優しくないのはアベ忖度(そんたく)内閣の、語るに落ちる与党のセンセイ方。センセイ方はアベ晋三から報酬を得ているとでも思っているのだろうか。（彼女は現在も演奏活動中）