私の昭和 33

夫を戦陣に送る、豊栄・布川ムメエさんの思い　鈴木重雄（88歳・八色木）

　私は、戦争余聞の項を書くにあたり、昭和56年発刊の「藤島町戦没者追悼集」を読んだ。

　読み進む毎に胸が詰まり涙が出てくる。

　この中で、豊栄・布川ムメエさん(長男幸治氏)の戦陣に送る夫への思いを抜粋して紹介させていただきます。

　☆　　☆

（写真：１９７４(昭49）年頃の布川ムメエさん）

　夫にもとうとう赤紙が来たのです。

　夫は33歳になって初めて軍服を着ることになった訳で、妻として何か可哀想な気持ちがしました。

　家を出るとき、「母と子供を頼むよ」と２度も３度も言われましたが、私はただ「あとは心配しないで」と言うのがやっとでした。

　軍隊に入ってからはほとんど便りがなくて、どうしたのだろうかと心配していたら、南方戦線にいることが判りました。

　ああやっぱり忙しくて便りも出せないのだと、月夜の晩など、月を拝んで夫の無事を祈ったものです。

　もみじのような手を合わせて、「お父さん早く帰って」と頭を下げる子ども２人を抱きながらそれは真剣な気持ちでした。

　しかし私たちの祈りも空しく、比島のルソン島で戦死したとの公報が、役場から伝えられたのです。

　あの時の気持ちは、筆や言葉で表すことはできません。

　ただ子供を抱きしめ姑と一緒に涙のある限り泣きました。…

　尚、ムメエさんは、夫の弟が昭和18年６月戦死しており、また夫の戦死で、子ども２人が戦争で命を失った姑の胸の内はどうだったのでしょう。