私の昭和23

軍馬徴用　鈴木重雄（88歳・八色木）

　就農２年目から馬を使うことになった。「馬使い」と言う。

　これは先輩若勢が軍需工場か何かに転職したからである。

　馬は農作業にとっては欠くことのできない動力源であり堆肥生産にも一役担っている。

　馬体も中位の栗毛色の駄馬で農作業に適していた。私は馬が好きで、馬と一緒に寝てもよいと思うほどなので馬もなついてくれた。蔵から肥料用の豆粕や穀類を失敬し、馬に与えたりしたので毛並みもよく、村一番の馬であった。この馬を使って馬耕競励会に出たこともある。

　春作業で人馬共に疲れた早苗振り休みに、馬を連れ川原に遊ばせながら、ヨモギと葦で松明のような虫送りを２本作り、馬にまたがって大きい方は川に流し、小さい方は田んぼの水口にさして虫送りの行事をやった。　

　馬車で鶴岡や酒田方面に使いに行くこともあったが、帰りは手綱無しで迷わず家に帰る。

　戦争も激しさを増し、中国や南方戦線に送るための馬の調教訓練もあった。乗馬用の鞍を着せ小学校校庭に集まり、騎兵除隊の在郷軍人が指揮する。縦列、並列、後退、かけ足など月１回位の訓練を受けた。気性の荒い馬もいるので気を緩めることはできない。

　年１回全頭、浜中海水浴場に徒行訓練が楽しかった。人馬一体の海水浴である。浜中海水浴場は遠浅なのでよかった。しぶる馬を引きながら深瀬(ふかぜ）に向かう。泳ぎだすと片手を馬の肩近くに生えている「たてがみ」に、片方に手綱を持ち一緒に泳いだ。

　その愛馬が軍部に徴用されることになって、馬体検査を受けるため鶴岡市泉町にある馬市場に行った。馬の背に乗りトボトボと歩いて行ったのを覚えている。

　やがて通知が来て、藤島駅丸通ホームから何頭かの馬と一緒に貨車に積まれ、下り方向に向かった。青森県弘前に騎兵隊、砲兵隊、輜重隊(軍需品の輸送補給に当たる兵科)があった。これらの手配は馬喰組合(家畜商)があたっていた。